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広島高等裁判所 昭和25年(う)113号 判決 1950年6月12日

被告人

転堂一美

主文

原判決を破棄する。

本件を広島地方裁判所福山支部に差戻す。

理由

先ず職権に依り調査するに、原判決書に依れば原審は判示第三の事実を認定するに付其の証拠として被告人の原審公判に於ける自供と共犯者奥江三郞、同三原春太の公判調書謄本とを挙示しているので、本件記録に編綴してある右奥江三郞、三原春太の公判調書謄本を観ると、右公判調書謄本は奥江三郞に対する詐欺、恐喝、橫領、三原春太に対する恐喝各被告事件に関するものであることが判明するのみで、右被告事件は如何なる内容の犯罪事実に関するものであるか、従つて本件被告人に対する原判示第三の事実と如何なる関聯があるのか、右公判調書謄本が如何なる点で原判示第三の事実の証拠となるのかを判定することが出来ない。故に右公判調書謄本のみに依つては、原判示第三の事実を認定する資料とはならないのみならず、原審公判に於ける被告人の自供を補強する証拠としても其の価値がないものと謂うべく、結局原審は原判示第三の事実を被告人の自白のみに依つて認定し之を有罪としたことに帰し、刑事訴訟法第三百十九条に違背したものといわざるを得ない。而して右違法は判決に影響を及ぼすことが明白であるから弁護人勝部良吉の控訴趣意に関する判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条に依り原判決を破棄し同法第四百条本文に依り本件を原裁判所に差戻すべきものとする。

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